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2017.01.18

第156回直木賞の候補作「夜行」は深く暗い穴に自分も吸い込まれる感覚

仕事に追いまくられた2016年に区切りをつけ、2017年は読書でもっと自分の内面を広げたい! 新しい世界の扉を叩いてみたい! そんな気持ちで新年を迎えた人も多いはず。いいスタートは切れていますか?

「なんだかんだとバタついて、まだ・・・」というあなたにおすすめしたい1冊が、森見登美彦さんの新作小説「夜行」(小学館刊)です。

1月19日に発表される第156回直木賞の候補作としても注目の本作、おそらくあなたが今まで経験したことのないような読書体験をさせてくれる作品なんです。

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森見登美彦作品のダークサイド「夜行」

森見さんといえば、「夜は短し歩けよ乙女」や「四畳半神話体系」など、個性ゆたかなキャラクターが織りなすコミカルでどこかファンタジックな青春小説で知られています。テレビアニメ化や舞台化などもされていて、中でも累計120万部のベストセラー「夜は短し歩けよ乙女」は、4月にアニメ映画の公開を控えています。ちょっと情けない主人公“先輩”の声を務めるのは、今もっとも注目の俳優&シンガーソングライター・星野源! 星野さんが演じる「意中の後輩に思いを寄せるもなかなか距離を縮められない冴えない大学生」役なんて、女子のハートをつかむ気満々のキャスティング!!

でも今回発表された小説「夜行」は、そんなユニークな作品群とはテイストの異なる作品で、いわば森見作品の“ダークサイド”といったところ。「現実(=ここ)ではない世界」の気配を色濃く漂わせた、怪奇的要素の強い作品です。

小説「夜行」は、ひとりの女性と連作絵画がつなぐ、奇妙な旅の物語

「夜行」は、10年ぶりに鞍馬の火祭へ見物に行くため、旧知の仲間5人が再会するシーンから語り起こされます。

10年前は大学生や大学院生だった5人も、今ではそれぞれに仕事や家庭を持つ身。全員が顔をそろえるのは、10年前の学生時分に行った鞍馬の火祭以来です。なんということはない同窓会といった雰囲気で始まる物語ですが、それぞれが心に抱えた闇の深さが徐々に見え隠れしてきます。なかでも作品に深い影を落としているのは、10年前の鞍馬行きのメンバーが5人ではなく6人だった、という事実。10年前のその夜、一緒に鞍馬に入った「長谷川さん」という女性の姿が見えなくなり、10年後の今も行方不明だというのです。

本編では、集まった5人の仲間たちのうち4人がこの10年の間に体験した、尾道、奥飛騨、津軽、天竜峡での「旅」の物語が綴られます。そしてそこには、かならず連作絵画「夜行」の姿が。一人ひとりの心の中に残る「長谷川さん」の存在感、それに謎の連作絵画「夜行」が4つの旅を貫いています。

「旅先でぽっかり開いた穴に吸いこまれる。その可能性はつねにある。」
作中で語られるこの言葉通り、4つの旅は得体の知れない「穴」と隣り合わせ。現実とも異世界ともつかない、なんとも奇妙で生々しい時間軸で進んでいきます。「穴」に吸いこまれるか吸いこまれないか、ギリギリのところで展開する旅の一部始終に、読者はページをめくる手を止めることができなくなっていきます。

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作品中、夜の闇の深さを象徴する一節があります。それは、ソ連の宇宙飛行士・ガガーリンの有名な言葉「地球は青かった」に関するもの。

われわれは宇宙からの画像や映像のおかげでその「青さ」を知った気になっているけれど、じつは、本当に衝撃を受けるのはその背景に広がる宇宙の暗さであるらしい、登場人物のひとりはそう語ります。ガガーリンの言葉は、じつは底知れない空虚のことを語っている、というのです。決して写真にはあらわせない宇宙の闇の深さを考えると、怖いような感じもするし、魅入られるような感じもする、とも。

作品に描かれた闇の深さに、まるで「魅入られ」たかのように夢中でページをめくる。そんな、特別な読書体験をすることができるのがこの「夜行」という作品なのです。ページをめくらずにはいられない、まるで魅入られたように――これほど、充実した読書体験があるでしょうか。

まだ体験したことがないほどの深い夜の闇を、あなたも見に行ってみませんか?

「夜行」森見登美彦著(小学館)
試し読みはこちら(特設ページ)

(文/広木こころ)

 
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