しごとなでしこ - SHOGAKUKAN

【イタリアの賄い飯】五臓六腑に染み渡る“ミネストラ”レシピ

賄い飯にこそ、イタリア料理のヒントが隠れている

イタリアの南から北まで、いろんな厨房で料理を教わってきて、いまにしてつくづく思うことのひとつは、意外と「ただの賄い飯」にものすごく大切な料理のヒントが隠れていたな、ということ。

もちろん、地元の名物料理や、その店ならではの格式あるメニューも大事なのだけど、厨房のおばちゃんたちが何気なくちゃちゃっと作るごはんにこそ、イタリア料理の基本が生かされていたりする。

ちょっとした肉の簡単ローストであっても塩をふるタイミングがいかに肝心か、野菜を炒める時の油の量から、火加減まで…、手際よいその手元を見ているだけで「なるほど!」の連続だ。

ピエモンテ州の由緒正しきリストランテでも、先代シェフの時代から厨房を支え続けているおばちゃんたちが作る賄い飯が、実は毎回楽しみだった。

ちょうど今ぐらいの、春の日差しが少しずつ眩しくなり始めるくらいの季節だっただろうか、その日は新じゃがや春キャベツがどっさり搬入されたのでミネストラをつくることになった。(レシピは記事の最後に掲載)

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“炒めて炒めて炒めまくってからから水を足す”のがポイント

ミネストローネといえば日本でもおなじみだけど、ミネストラもミネストローネも要は野菜をふんだんに使ったスープのことで、具材がゴロゴロと大きければミネストラだし、小さければミネストローネ。イタリアでも厳密な区分はないらしいが、主にミネストローネという場合は小さなパスタやスペルト小麦などが一緒に入っている場合が多いけれど、ミネストラの場合は野菜だけで楽しむ場合が多い。

「さ、リッツは野菜をどんどん切ってちょうだい」
と言われるがままにジャガイモやニンジンを小さく丁寧に切り始めると

「あら、いやだ。そんなに細かくなくっていいのよ。もっと大きく、ドサドサっと大雑把に切りゃいいのよ」
丁寧すぎて怒られるというのも、イタリアでは間々あることとはいえ、こんなに適当でいいの?

「いいの、いいの」
たっぷりのオリーブオイルを深鍋に引き、たまねぎ、ポロネギ、セロリ、にんじん、キャベツ、じゃがいもといった野菜を、切ったそばからガンガン投入しながら炒めていく。

このとき、火は決して弱火ではなく、結構な中火。強火といってもいいかもしれない。焦げつきそうで一瞬不安になるが、すぐに野菜から水分が出てきて、ぐつぐつと音を立てるほどになる。

しかし、これ、野菜炒めじゃなくて、ミネストラ作ってるんだよね? 水入れなくていいの? いつまで炒めるんだろ…。

「まだまだ、もっと炒めて。いいって言うまで、休んじゃダメ!」
深鍋の半分以上は嵩のあった野菜は、くったくたになって、とっくに半分以下になっている。それでも、ひたすら木ベラで炒め続けること15分くらいだろうか、じゃがいももすっかり型崩れしてきた。

「ベーネ、ベーネ。うん、そろそろいいわね」
じゃがいもやにんじんに木ベラを立てると2つに割れるほどにまで火が通ったら、ここで初めて水を入れる。すでに野菜には完全に火が通っているので、ここからあとは20分くらい煮込めばいい。

「塩を入れてちょうだい。で、味見してみて」
そう言われて、一口運んでみてびっくり。

あまーい! そしてコクがある。野菜と水以外に入れたのは塩だけ。ブロード(ブイヨン)も入れていない、つまり100パーセント、野菜のおダシ。野菜だけで、こんなに旨味とコクが出るなんて信じられない。

なるほど、水を投入する前に、これでもかってくらい野菜を炒めることで、その旨味と持ち味を最大限に絞り出すということか。

ちなみにミネストローネを作る場合は、深鍋に水とすべての野菜を最初に入れてしまってから弱火で長時間ぐつぐつ煮込むという方法もあって、それはそれで野菜の繊細な甘みを感じるスープなのだが、この「炒めて炒めて炒めまくってからから水を足す」方式は、繊細どころかパンチの利きまくった春野菜たちの底力が五臓六腑に染み渡る感じがたまらない。

皿に取り分けたら、上からたっぷりのオリーブオイルをかけていただくと、さらに旨味アップ。お腹はずっしりと充足感に満たされ、ああ幸せ。

「さ、食べ終わったらミネストラの仕上げにかかるわよ」
え? これで完成じゃなかったの?

さらに一手間かければ、リストランテのメニューに

どうやら、ここまでだと賄い飯。ここから先の作業を加えると、お客さん用のメニューになるらしい。

鍋の中のミネストラを半量だけボールに移し、フードプロセッサにかけてポタージュ状にし、これをまた鍋に戻す。そこへ今度は、最初に炒めたときのゴロゴロ野菜とはうってかわって、小さくさいの目に切った少量のじゃがいもとニンジンを加え、これらがやわらかくなるまで再び火を通す。

こうすることで、
1 煮崩れたゴロゴロ野菜
2 ポタージュ状のもの
3 新たに加えた形状をとどめたニンジンとじゃがいも

という三種類の食感と、見た目のアクセントを楽しむことができるのだとか。へー、確かに最後の一手間で、賄い飯が一気にリストランテのメニューに変身というわけだ。

さすがだな。厨房のおばちゃんたち。で、結局のところ、つまりはお客に出すのとまったく同じものを、毎日食べている私たちなのでありましたとさ。

【Minestra di primavera】
春野菜のミネストラの作り方(6~8人分)

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1.深鍋に、みじんぎりにしたパセリの葉(適量)とニンニク(一片)、たっぷりのオリーブオイルを入れ、弱火で炒める。

2.たまねぎ(1個)、リーキまたは長ネギ(白い部分・1本)、セロリ(1/2本)、ニンジン(1本)、キャベツ(6〜7枚)・じゃがいも(2個)はすべて適当な大きさに切り、次々に鍋に投入し、中火〜強火でひたすら炒める。

3.じゃがいもが型崩れするまでよく炒めて火を通したら、ここで初めて水(1000ml)を加え、ローリエの葉(1枚)も入れて、弱火で煮込む。このとき足す水は少し温めてから加えること。(炒めたものに水やスープなどを足すときは、具材の温度を下げないために温めたものを加える。これもイタリア料理の密かなる基本)

4.20〜30分ほど煮込んだら、味を見ながら塩(小さじ2〜3)を加えて整える。

賄い飯はこれにて完成。リストランテメニューにしたい場合は以下の作業へ。

5.ローリエを取り除き、半量分だけボールなどに取り分けフードプロセッサでポタージュ状にし、再び鍋に戻す。

6.ここへ、今度はさいの目に切ったじゃがいも(1個)とニンジン(1/2本)を加え、火が通るまで煮込む。

※好みで他の季節の野菜(例えば茹でたそら豆など)を加えてもよい。
※分量は目安です。大きめのじゃがいもだろうが、細めのにんじんだろうが、個数がかわろうが、味に大差は出ませんので大らかな気持ちでつくってください。

春キャベツ、新じゃが、新たまねぎ、新にんじん…。春野菜の持つエネルギーをこれでもかってくらい引き出した「春こそ、ミネストラ」で、今夜もボナペティート。

山中律子 イタリア家庭料理研究家

慶応義塾大学法学部政治学科卒。電通にてコピーライターとして勤務の傍ら、イタリア家庭料理研究家として活動。毎年、子連れでイタリア各地の田舎を旅し、アグリトゥーリズモや農家のマンマに料理を習う。自宅で料理教室や料理イベントを主催。著書に「トルテリーニが食べたくて」。

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