しごとなでしこ - SHOGAKUKAN

冬の北イタリアが快適な理由

出発前にいちばん神経をとがらせるのは、子供達の体調管理

イタリア休暇に入る数週間前からの私の神経のとがらせ方といったら、自分でいうのもなんだけど半端ない。

仕事が片付かない、それもある。
日常の雑務に追われながらの旅の準備は遅々として進まない、それも大きい。
子供達の着替えはどうする、そういやパンツも買い足さないといけないじゃん、たいへん常備薬が切れそうだわ、ああ、イタリア人たちへのお土産もまだ買ってなーい!… という具合に「やること」と「買うこと」リストでメモがいっぱいになるほど。

しかし、もっと神経をピリピリさせないといけないことがある。
それは子供達の体調管理
これがまた自分のことより10倍は気を遣う作業なのだ。

出発間際にもしものことがあったら、週末の温泉をキャンセルするのとはワケが違う。ただの風邪くらいならまだしも、折しも学校でインフルエンザ大流行の中、このタイミングで感染したら、アウトだ。

なにはさておき元気に出発し、元気に現地で過ごし、そして無事に帰ってくること。そのためには、せっせとうがい&手洗い。せっせとR1。保育園から帰った途端に一瞬でもそのままお菓子に手を出そうとしたものなら「うりゃーっ。うがいと手洗い、してないだろーっ」と雷が落ちる。いや、落とす。外へ出る時はマスク必着。人混みには絶対に行かず、外食も控える。

出発日まで、ああ、あと4日、あと3日、どうかこのまま元気で…とカウントダウンしながら、そうしてなんとか無事に日本を発ち、いざイタリアの地に降り立つやいなや、ヨーロッパでは「マスク=保菌者」扱いされちゃうから今度はマスクは真っ先にはずさせ、代わりにマフラーで口を覆わせるなどして最初のうちはまだ気遣うのだけど、そのうち慌ただしくも楽しい日々に、そういえば、私たち3人揃ってすっかり「無防備」じゃないか。

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おまけに考えてみたら、そんなわけでマスクをつける習慣のないイタリア人には咳エチケットという観念もないわけで、みんな平気で咳を撒き散らして歩いている。そんな中を完全無防備な状態で過ごしていたのに、3人とも風邪ひとつひかずに元気に日本に帰還できたのは、ただ単にラッキーだったから。

…だけではなさそうだ。

いざ、トレヴィーゾのラディッキオづくしへ

「なになに? トレヴィーゾまでラディッキオを食べに行きたいのかい? いいとも、僕が一緒に行ってあげよう。お安いごようさ。しかし問題は天気だな」

ボローニャの父であり今回も居候させてもらうことになったフランコに出発前に日本から電話を入れた際のこと。私が、トレヴィーゾの近くにラディッキオを使った料理をフルコースで出してくれるリストランテがあるって聞いたんだけど…と控えめに切り出しただけで、瞬時にこちらの意を察してくれたフランコ。

なんて優しいの! ボローニャから車で片道二時間かかるのに連れて行ってくれるなんて。しかし、「問題は天気」ってどういうことか。別に雨でも晴れでも、リストランテに食べに行くだけなんだから関係ないはずなんだけど。

フランコが気にしていること。それは、

北イタリアを横断して流れるイタリア最長の川、ポー川。
その流域にあたるエミリア・ロマーニャ州からヴェネト州にかけては、冬は夕方になると深い霧に包まれる日が多い。ボローニャから車でトレヴィーゾ方面を目指す道は、まさにすっぽりとこの濃霧地帯にあたるため視界がほんの2〜3メートルになることもあるのだとか。「なるべく霧の少ない天気のいい日を選んで行こう」という意味だったのだ。

出発前は何ひとつ決まらないのに、こっちに来るなりあっという間に予定が埋まっていくのがイタリア。結局、天気の良い日なんて選んでる暇はなく、唯一のこった丸一日フリーな日に行くしかなかったのだけど、この日は朝から雲ひとつない青空だった。

70代も後半に突入したフランコ&ネリーナ夫婦に車を出させ、ボローニャから軽く二時間はかかるトレヴィーゾまで運転させるという、いくら娘のようにかわいがってもらっているとはいえ、なんたる図々しい客人。

高速をぶっとばし走ること2時間、トレヴィーゾ、正確に言うと隣町のカステルフランコ・ヴェネトの町はずれにある一軒のリストランテに到着。

vol.20の「今夜もボナペティート」でも書いたとおりイタリア料理の真骨頂は冬にこそあると確信する私としては、久々の冬の来訪で、今しか食べられない料理をがっつり食べることも、今回の目的のひとつ。

中でも真冬の今しか出回らない野菜、ラディッキオ・タルディーヴォの料理を、しかも産地で食べてみたかったのだ。

訪れたリストランテは、私の元料理の先生で、この地域出身のマリアの情報。なんでもラディッキオ・タルディーヴォを使った料理のフルコースがいただけるのだとか。それもマリアがまだうら若き40年前の話だったのだが、相変わらず今でも同じ趣向でやっているのだとか。

想像していた以上に高級な佇まい。有名人も多く訪れてるらしく入口に置かれたアルバムには俳優や歌手、サッカー選手など有名人が来店したときの写真でいっぱい。ボローニャ出身の国民的歌手で6〜7年前になくなったルチオ・ダッラの写真も。

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立派なスーツを着た立ち居振る舞いもエレガントなフロアマネージャーのお薦めに則り、前菜からメインまでラディッキオを使った料理を次々に堪能する。

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ラディッキオとゴルゴンゾーラをパンチェッタで巻いたグリル、ラディッキオを練り込んだキッシュ風、ラディッキオとリコッタを餡にしたラビオリ、ラディッキオを練り込んだタリオリーニなどなど、まあよくこんなにいろいろ思いつくわな、と感心しつつも、いっちばん美味しかったのは、やっぱりシンプルな定番の「ラディッキオのリゾット」なんだな。えぐみがまったくなくてラディッキオの旨味だけがぎゅっと凝縮された感じ。いつもは私のつくるラディッキオのリゾットなんて一口も食べない次男が、ふと見るときれいに平らげている。

料理って、奇をてらうより、やっぱり直球が旨いんだな。

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店を出た後は、せっかくだからとカステルフランコの街をぶらぶら。

そうこうしてるうちに霧がでてくる時間になっちゃったよ、というフランコの心配をよそに、帰りも霧に悩まされることは一切なく、順調にボローニャ着。

他に選択肢がなくてこの日に強行したヴェネト州行きだったけど、今思えば滞在中いちばん晴れ渡った日だったではないか。

残りの滞在は、朝起きると「あれ? 雨降ったの?」というくらい地面は夜中じゅうの霧で濡れているし、窓もじめっと結露してるし、ずっとそんな毎日だったなあ。

ここでふと、気づいたのだ。
そうか、霧か!

わかったぞ。マスクもせず、うがい手洗いもろくにできずに人混みの中を連日歩き回っていたにもかかわらず、風邪もひかずに元気で帰ってこれたことがただのラッキーだけではない理由が。

それは霧。つまり湿気だ。

夏は総じて空気がカラッとしているイタリアだが、冬のこのあたりは湿度がものすごく高い。当然、ウイルスは日本よりもずっと繁殖しにくいに違いない。

もちろんイタリアにだって風邪ひきさんもたくさんいたし、孫がインフエンザになっちゃって、なんて話も耳にしたけれど、カラカラに乾ききった日本よりはずっとまともな環境であると断言できる。

そういえば、日本ではリップクリームが欠かせないカサカサ唇も、こっちにきてから一度もぬってないのに唇つやつや。気のせいかお肌も日本にいるときよりぷるぷるだぞ。

食べ物はおいしいし、寒いけど適度に湿気はあるし、冬のイタリア、やっぱり快適だな。もっと居たいな。そんな未練たらたらの思いで、さあ日本へ帰国してみたら….

なななんと、夫がインフルエンザになっていた。

ああ、やっぱり日本ってウイルスの巣窟なのね。

無防備な世界から一転して、出発前よりもさらに強固な予防体制に逆戻り。感染こそなんとか免れたものの、今度は母子そろって風邪を引く始末。こんだけ予防しても風邪ひくんだから、日本の冬はさぞウイルスの活動にはうってつけなのだろう。

夏は日本よりカラッとしてるイタリア。冬は日本ほど乾燥してないイタリア。
もう、夏も冬もイタリアに行かなくっちゃダメじゃん。
夏イタリア&冬イタリア。
定番化に向けて早くも真剣に策を考えている私である。

山中律子 イタリア家庭料理研究家

慶応義塾大学法学部政治学科卒。電通にてコピーライターとして勤務の傍ら、イタリア家庭料理研究家として活動。毎年、子連れでイタリア各地の田舎を旅し、アグリトゥーリズモや農家のマンマに料理を習う。自宅で料理教室や料理イベントを主催。著書に「トルテリーニが食べたくて」。

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