しごとなでしこ - SHOGAKUKAN

あけまして、100年バルサミコでございます。

ダラダラ正月の醍醐味

東京で過ごす正月が、意外と、大好き。
普段の連休だと、どこかに行かなくちゃもったいない気持ちになったり、ダラダラ過ごしてると妙な後ろめたさを感じたり。
でも正月は堂々と何もしないでいられるのが、なんたっていい。

いつまで寝ていようが誰にも文句言われない。好きな時に起きて、朝からお酒飲んで、おせちとお雑煮食べて、年賀状見て、テレビ見て、お菓子食べて…。

時間に追われることもない。メールに返事をしそびれていても怒られない。オフィシャルにシャッターをぴっちりしめたまま、家でどんな風に過ごしても「ま、いっか。正月休みだし」ですべてが許される感じが、たまらなく好き。

年内にやり残したことを、なんとなくやり始める、というのも私の正月の定番。当然ながら家の片付けは年内に終わらず、三箇日にちょこちょこと押入れの中を片付けて断捨離しまくる。

本来、正月に掃除をしてはいけない理由は、新年にせっかくいらしてくれたその年の神様を、掃除をするとこで追い払ってしまうことになるから、だそうなので、掃除機はかけないまま(そもそも大の苦手だし!)、ゴミ袋も家の廊下にまとめたまま(ゴミ収集車来ないし!)、神様に、普段のありのままの我が家でおくつろぎいただくことに決めている。

年賀状も仕事納めが終わってから刷りあがるのはもはや恒例で、年内にはプリンターのインクカートリッジを揃えるのがやっと。これまた年を越してからせっせと書いてる次第。

若干負け惜しみもあるけれど、こういう正月の過ごし方ができるのも、東京居残り組の特権なのだ。

さて、そして今年はもうひとつ、年明けに持ち越してしまった大きなお楽しみが。
それは、昨年、半世紀を迎えた男2人のお祝いを我が家で行うというもの。
以前、ここでもご紹介したことのあるイタリア食材PIATTIの岡田さんと、うちの夫が昨年揃って50に。そこで奥様が昨年イタリアで購入してきた「100年熟成バルサミコ酢」をみんなで開封して味見しようという、そう、完全に便乗企画である。

本場モデナの歴史ある作り手による100歳のバルサミコ! いま味わっておかなければ一生味わえないかも!というわけで、岡田さんが7月に、うちの夫が10月に、そろって50になったところで、昨秋に一度計画したのだがお互いいろいろと用事が重なって延期に。年はまたいでしまったけれど、新年早々に満を持しての開催だ。

あけまして、100年ものでございます。

まず、このパッケージがすごい。まるで仏壇、いや、たとえが不適切すぎるな、どこぞの大聖堂の地下にでも埋められていそうな、なんというか、いかにも秘宝が入っていそうな箱。さあ、両手を合わせて拝んだら、いざ、御開帳〜。

01

後光とともに現れたるは、これぞ100年バルサミコ。

しかしそのボトルはといえば、いわゆる「伝統的バルサミコ酢」を名乗ることができる作り手だけが使用を許されるGiugiaroデザインのボトルにこそ入っているものの、これじゃ25年、12年熟成のものと違いがわからないじゃないの、とやきもきしたくなるくらい、ボトルに100年と記されているわけでもないし、これといって主張がない。

しかし、肝心のお味の方はというと…
ある意味、想像を大きく覆されたという意味で度肝を抜かれる。

バルサミコ酢ってのは熟成すればするほど、甘味が増してこってりととろとろになるもんだと思っていたけど、そうじゃなかった。今まで食したことのなる中でもっとも熟成年数の多い25年ものバルサミコ酢の蜜のような味を想像しながら、それのさらにすごいやつを想像していたけど、まったく違うではないか。

見た目は確かにとろりとしているけれど、一口運んだ時に感じる、むしろさらりとした甘みと適度な酸味にまず驚く。そしてその直後に鼻から抜けていく、なんとも表現しがたい香りにノックアウトだ。

ほわーんと芳醇で、ものすごく豊かで、それでいてものすごく繊細。100年の重みってこういうことをいうのだろうか。

02

2016年の100年前といえば、第一次世界大戦のまっさかり。その後の第二次大戦では、ドイツやイタリアのファシスト軍の弾圧に市民レジスタンス運動で対抗して多くの犠牲者を出したのがモデナだ。爆撃を受ける中、屋根裏部屋でこっそりとひた隠しにしながらバルサミコ酢を作り続けた時期もあったに違いない。激動の時代を、その空気にひたすら身を任せながら樽の中で粛々と生き抜いていきたバルサミコ酢には、人々の悲しみと喜びの歴史のすべてが詰まっている。そんな100年分の歴史が作った香りと味わいを、私なんぞが偉そうに表現しようとするほうが大きな間違いだ。

50歳×2のご相伴にあやかって100歳バルサミコ。

東京にいると、こんないい新年会もできるのだ。うん、いい年になりそうだな。って、違う違う、だからこれは昨年の50男のお祝いで、新年会じゃないんだってば。

と、ここまで書いてから重大なことを忘れていたことに気づきましたが、…なんと今年は、その私が半世紀女になる番ではないか!

普通は、こういう記念すべき年って、正月に「大台の豊富」とか「目標」とか掲げるものなんだろうけど、今のいままで自覚もなかったという、これまたダラダラ正月もいいところ。

50なんて100歳バルサミコ酢には遠く及ばないけれど、私も時の流れに身を任せながらも、しっかりと世の中を見据え、粛々と受け止め、この身体に時代を刻む人になろう。そしてなんとも表現しがたい味わいと香りを放ってみせようではないか。うむ、人生後半生のスタートの歳にふさわしい目標だな。

ん? 今から人生後半戦? おいおい、やっぱり100までいく気かよ、私?

「100までボナペティート」じゃなくって「今夜もボナペティート」、今年もよろしくおつきあいくださいませ。

山中律子 イタリア家庭料理研究家

慶応義塾大学法学部政治学科卒。電通にてコピーライターとして勤務の傍ら、イタリア家庭料理研究家として活動。毎年、子連れでイタリア各地の田舎を旅し、アグリトゥーリズモや農家のマンマに料理を習う。自宅で料理教室や料理イベントを主催。著書に「トルテリーニが食べたくて」。

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