しごとなでしこ - SHOGAKUKAN

めざせ、イタリア式クリスマスの過ごし方

クリスマスが嫌いだったあの頃

結婚してよかったと思うことのひとつに、クリスマスに関して必要以上に悩む必要がなくなった、というのがある。どこに食事に行くとか、何を贈られたいかとか、正直どうでもよくなった。おそらくこれは世の夫君も、妻から過度な期待をもたれなくなったという点で大いに同意してくれるに違いない。さらに子供ができると、今度は「サンタからのプレゼントどうするよ?」問題のほうがウエイトを占めるようになるし、子連れでおしゃれな店なんてありえないしと、いい具合に大義名分ができて妙に助かった気がするものだ。

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クリスマスに宗教的なよりどころを持たない日本人にとって、12月24日と25日はただの賑やかしデーでしかないのは致し方ないこととはいえ、しかしなんでまた、いったいいつから、彼氏、彼女と一緒に過ごすべき日になっちゃったんだろう。

日本の若者はつくづく大変だ。

恋人がいないとクリスマスが近づくにつれて憂鬱になる。女同士で「24日はなにしてるの?」と探りあったりして。親友にも裏切られ、彼氏いないもの同士で寄り集まってなんとかやり過ごしたりするのだ。

恋人がいたらいたで、今度はどの店を予約するかで悩まないといけない。クリスマス用に設定された高いディナーコースなんかを頼む羽目になって、まんまとクリスマス商戦のいい鴨になり下がる。自分の息子たちも将来そんなくだらない苦労をするのかと思うと、母としては今からもどかしくて仕方がないくらい。

そんなわけで、ひねくれた若者だった私は、彼氏がいようがいまいがクリスマスは好きな行事ではなかった。クリスマスが終わると一気につまらなくなるという友達もいるけれど、私はどちらかというとホッとするタイプだったのは確か。

クリスマスはマンマの食卓を囲む日

イタリアのクリスマスも、全国民が一年で一番お金を使う一大商戦。12月に入ると、これが同じイタリアか?というほど、いつもは三時間きっちり昼休みを取るような店でさえ朝から晩まで通し営業。日曜も返上で店を開ける。

というのもみんなクリスマスに向けて、毎日プレゼントを探し歩くから。手作り感たっぷりのイルミネーションで彩られた町を、連日ぞろぞろと人が行き交う。チェントロを歩けば一日ひとりは必ず知り合いに会うと言っていいほど。

しかしプレゼントをあげる相手は、両親、兄弟、甥っ子、姪っ子、いとこ…。彼氏や彼女へのプレゼントより、むしろ家族へのそれのほうが大事らしい

そしてクリスマス当日も、教会に行く以外は、家族で食卓を囲み、食べて飲んで、また食べて…の一日を送るのだ。町を歩いているカップルがいたとしたら、それは間違いなく観光客ってなくらい。

私自身は残念ながら12月25日当日までイタリアにいられたことはないのだけど、クリスマスにイタリアの知人から送られてくるSNSの写真に、ずらーっと一族で食卓を囲んでいる様子が写っているのを見るにつけ、「あれ? いつもは実家に近寄らない息子が帰ってきてるじゃん」とか「3兄弟そろってるの初めて見た!」とか、そう、それはちょうど日本でいうところのお正月のような光景。「やっぱり、うちのお雑煮が食べたいな」「栗きんとんはオカンのが一番なんだよな」なんて感じで、きっとマンマのクリスマスの食卓が恋しくてやってくるんだろうな。

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さて、そんなマンマのクリスマス料理とはいったい何かというと、北イタリアの代表例は、何を隠そう「トルテッリーニ」。私がイタリア家庭料理にはまるきっかけになった生パスタだ。正方形にしたパスタ生地でミンチした肉や生ハムなどを包み込んだ小さな小さな水餃子のようなパスタで、六時間かけてつくる黄金のスープに浮かべて食べる冬のごちそう。20年以上前、モデナ近郊の小さな宿で出会ったこの料理がどうしても作れるようになりたくて、イタリアへ料理修行に旅立つことを決意した、私にとっては他の何よりも大切なイタリア料理。毎年冬になると、おそらく日本の中で一番たくさんのトルテッリーニを作っている自負もある。

しかし、なんだな。クリスマスが嫌いといってるくせに、はまった料理はクリスマス料理の代表格トルテッリーニってのも、ちょっとバツの悪い話だな。

でもふと、もしかしたらそれは、クリスマスに息子たちを母の料理で釣り続けるための伏線だったのかも? なあんて思ったり。

息子たちよ、近い将来彼女ができても、どこぞのフレンチのクリスマス特別コースメニューなんてものに無駄な金を落とさずに、まずはうちでトルテッリーニを食べていけ。なんなら彼女も連れてこい。そしてたらふく食べてから、どこへでも繰り出すがいい。

そんな母の企みをめいっぱい詰め込みながら、今年のクリスマスもせっせとトルテッリーニを作ろうと思う。

最後に余談。

息子が通う男子校で、生徒が行うクリスマス聖劇。肝心の主役を誰もやりたがらず、仕方なく息子が買って出ることになったという。さて主役は何の役かというと、キリスト誕生までを描くわけなので主役はキリストではなく、そう、キリストを産んだマリア様だ。父ヨセフでもなく、あくまでも母マリアが聖母なのだ。

同じキリスト教でも、カトリックがプロテスタントと大きな違うことの一つに、聖母マリア崇拝というのがある。母を崇める、母を頼る、母を求める、なるほど、この信仰こそ、イタリア人の「マンマ信仰」の礎なのだと改めて。

だからクリスマスは、マンマのもとに帰る日、でもあるんだな。
Buon Natale! よいクリスマスを。

山中律子 イタリア家庭料理研究家

慶応義塾大学法学部政治学科卒。電通にてコピーライターとして勤務の傍ら、イタリア家庭料理研究家として活動。毎年、子連れでイタリア各地の田舎を旅し、アグリトゥーリズモや農家のマンマに料理を習う。自宅で料理教室や料理イベントを主催。著書に「トルテリーニが食べたくて」。

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