しごとなでしこ - SHOGAKUKAN

「ありがとう」と「ありがとう」に、ありがとう。

イタリア大使館にて「骨董イタリアン」を開催

「しごとなでしこ」で記事にしていただいたように、先週、イタリア大使館公邸で大使夫人の大切なお客様に料理を作るという、身に余る機会を頂戴した。

01

「骨董イタリアン」とは、私の旧友で福岡で骨董商をしている三嶋亜希子さんとのコラボレーションで、日本の家庭の中で何代にも渡り活躍してきた器たちで、イタリアで同じく親子代々受け継がれてきた家庭料理を堪能しながら、そのマッチングを体感していただこうというもの。3年ほど前から定期的に拙宅で開催していたのだが、日伊の文化融合という観点から大いに共鳴してくださったイタリア大使夫人の熱意と、私たちを日頃から応援してくださっていたある方の並ならぬご尽力によって、この日を迎えることができたのだ。

いってみれば私たちの活動のひとつの集大成であると同時に、なにより料理人としては、35人分の大切なお客様へのフルコースという、恐れ多いほど貴重な舞台を体験させてもらったことになる。

しかしいざ無事に事を成し遂げてみると、これを誰に自慢したいとか、これをステップにどこかに打って出るぞとか、そういう野心のようなものは不思議と一切なくて、ひとえに、料理を教えてくれたマンマたちに報告がしたい。突然飛び込んできたどこの馬の骨ともしれぬ東洋人の私に惜しみなく手を差し伸べてくれた十数年前のあの日から今に至るまで、いつも温かく迎え入れてくれたイタリア中のマンマたちに、いち早く伝えたい。そんな気持ちでいっぱいだ。

02

実演までやらせていただいたトルテッリーニは、その発祥の地であるカステルフランコという小さな街で、トルテッリーニばかりをひたすら作りつづけて60数年の御歳90歳になるイリスおばあちゃんから習ったもの。前菜の焼きパプリカとツナソースは、アルバ近郊の農家のピヌッチャが5分でできる十八番だと自慢しながら教えてくれたっけ。ブロッコリーのフランの上から注ぎ込んだ白いポタージュは、ボローニャ料理の鬼主婦マリアから伝授してもらったポタージュを季節のカブでアレンジ。もちろん、「ええ! そんなもの入れるの?」と目からウロコのとろみの秘密食材は忘れずに。ニョッコフリットは、耳の遠いミレーナと初めてまともにコミュニケーションが取れたきっかけになった料理だったな。メインのホロホロ鶏とコニャックに漬け込んだブドウの煮込みは、ピエモンテの城の厨房で作業の輪に入れなくてモジモジしていた私がブドウの皮むき作業なら邪魔にならないと思って初めて手を出した料理だ。パンナコッタは、ボローニャ料理の重鎮おばあちゃん先生に「ボローニャ風のパンナコッタが知りたい」と聞いたら「よくぞ質問してくれた! ボローニャ風こそパンナコッタの真髄よ」とわざわざレシピを探し出してきてくれたんだっけ…。

こうして一品一品ひとりひとりの顔を思い浮かべながら作れば、きっと、ぜったい、うまくいく。自分でも無意識に、すがるような思いでメニューを決めたのかもしれない。

03

「ありがとう」と「ありがとう」に、ありがとう。
人は人に支えられてこそ、大きなチャレンジができる

こうした、なんとも表現しがたいプレッシャーは四半世紀に及ぶサラリーマン生活でも経験したことのないものだったけれど、それを乗り越えることができたのも決して自分ひとりの力ではない、多くのエールに背中を押していただいたからこそと、つくづく実感する。

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そして今、心の底から思うことは、人は人に支えられてこそ大きなチャレンジができるのだということ

品質のよい食材を抜かりなく調達することから、当日の厨房や会全体のオペレーションに至るまで、綿密な計画、各所とやりとり、その膨大な作業量にくじけそうになったとき、ふと気がつけば私の周囲には心強い仲間たちが集ってくれていた。

「人ってさ、『ありがとう』『ありがとう』ってお互いがいつも言葉をかけ合っていたらね、どんなことも不思議と乗り越えられちゃうものなのよ」

そのとき仲間の一人から言われたこの言葉に、今思えば、なんだかまんまと魔法をかけられたみたいに、本番は「Grazie」が絶え間なく飛び交う厨房になったのだ。

みんな、10年以上も私の料理活動を応援し続けてきてくれた、同じくイタリア馬鹿の仲間たち。なんの見返りを期待するわけでもなく、ただ私のために、いや、今回の「骨董イタリアン」の成功のために、もっというと大切なお客様に喜んでいただきたい、その一心のために、無償で手を差し伸べてくれた友人たちだ。

京都の某リストランテからは私が尊敬する旧知の毛利シェフが休みを取って駆けつけてくれた。大使館厨房シェフのマニュエルも「こんな面白い企画は初めて」と全面的に協力してくれて、二人の素晴らしいシェフがアシスタントにつくという、罰が当たるほど贅沢な体制で厨房を動かすことができた。

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本当は誰もが心の中には計り知れない不安や緊張を秘めていたに違いない。でも、そんな姿は誰一人見せることなく、厨房の中はいつも笑顔が絶えなかった。果てしなく生まれる想定外の雑用作業にも、それぞれが瞬時に悟って動いてくれる。一人一人のお互いを思いやる行動、助け合い、感謝し合あう気持ちが、いつしかみんなのストレスをどんどん排除していって、和気あいあいと楽しんでいるうちに仕事は着実に完成へと近づいていく。

そう、それって、私がイタリアで過ごした厨房と全く同じ光景。

スローフードの会長が来ようがアルバ市長が来ようが、厨房の中はまったくいつもと変わらず。せっせと手を動かし、助け合いながら、まかないのおばさんたちの笑顔とジョークが絶えない厨房と全く一緒だ。

私が作る料理も、相手がどんなお客様であろうとたったひとつ。背伸びのしようもない。日頃のリストランテ・リッツでテーブルを10人でぎゅうぎゅう詰めになって囲みながら味わってもらうマンマの大らかで優しい味わいの料理、それ以上でも以下でもないからこそ、笑顔と愛情いっぱいの厨房でないといけないのだ。

今回、厨房で力を貸してくれた仲間たちも、目的はそれぞれだけど私と同じようにイタリアに通い、イタリア人の懐に飛び込み、毎回、お金には例えられない大きな愛をお土産に帰ってくる人たち。あるいは日常の中で家族や友からいつも大きな愛を受け取っている人たち。愛をもって人を助けることができる人は、愛をもって人から助けられたことのある人、ということまさに「ありがとう」と「ありがとう」で、全員で手に入れた達成感だ。

最後、お客様を玄関でお見送りするとき、みなさんが口々にこう言ってくださった。

「これだけの量をいただいたのに、ちっとも胃にもたれない。なんて優しいお味なのかしら」
「こんな繊細でやさしいイタリア料理は初めて」
「きっと向こうのお母さんの味はこうなんでしょうね。もっといろいろなお料理をいただいてみたいわ」
…すごく嬉しくて、一気に力が抜けて、つい涙が出そうになる。

イタリアのマンマたちへ、そして仲間たちへ。もう何度でも言っちゃう。

「ありがとう」と「ありがとう」の連鎖に、心から、ありがとう。

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「骨董イタリアン」レポート記事はこちら

山中律子 イタリア家庭料理研究家

慶応義塾大学法学部政治学科卒。電通にてコピーライターとして勤務の傍ら、イタリア家庭料理研究家として活動。毎年、子連れでイタリア各地の田舎を旅し、アグリトゥーリズモや農家のマンマに料理を習う。自宅で料理教室や料理イベントを主催。著書に「トルテリーニが食べたくて」。

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