しごとなでしこ - SHOGAKUKAN

イタリア人の家はなぜきれい?

イタリア家庭料理研究家として活動する山中律子さんが、イタリア各地のマンマたちから学んだ料理やライフスタイルについて語るコラム連載。

掃除が大の苦手です

10月になっても暑くてたまらんと前回のコラムで書いたそばからいきなり寒くなり、それはそれで身体がついていけないのだけど、「こうしちゃいられん。洋服を入れ替えないと」と相変わらず重い腰に鞭を打つ羽目になっている。

毎度気が滅入るこの作業。子供たちが成長するにつれ自分の収納スペースはどんどんなくなるというのに、ああ、どうして物が減らせないんだろう。昔の服やバッグに執着があるわけじゃないし、「こんまり」さんの方式で物に分別をつけていく作業は非常に有益だと思うのだが、ふと、そうした作業に費やす十分な時間すら日常生活の中で見いだせないことに気づく。

洗濯、掃除、子供の送り迎え、食材の買い物、学校や保育園関係の事務的なこと、朝の弁当作り、夕飯の支度…挙げればキリのない家事の数々を、仕事と並行してこなしていくとなると、この中で唯一、省略しても生きていけるものといったら、そう、掃除なのだ

長い言い訳になりましたが、そんなわけで掃除が大の苦手。「足の踏み場もない」という表現は我が家のためにあるのではないかというくらいの散らかりよう。でも自慢じゃないが、汚いなら汚いなりに物の配置などは頭に叩き込まれていて、衣類の山から息子の体操服を探し当てたり、乱雑な本棚の奥の奥にパスポートが眠っていることなどは熟知しているから、部屋が散らかっていて困ったことはあまりない。唯一あるとしたら、空き巣に入られてもきっと気付かないだろうな、とか、これじゃ現場検証できないだろうな、ということくらいだろうか。

でも先日、初めて、ああ、いつも部屋を綺麗にしてるに越したことはないと痛感した出来事があった。

洗面所の鏡の上の電気が突然つかなくなった。私が化粧をするにも、年頃の長男が鼻の下のうぶ髭を私の女性用カミソリでこっそり剃るにも、髪質上整髪が毎朝の最難関である夫にも、この電気がつかないと致命的。しかし、電球を新しくしても、試しにぶっ叩いてみてもダメ。業者に見てもらわないとダメだそうだ。幸い、うちのアパートの一階は電気屋さん。翌日の夜、店を閉めて帰宅するところのご主人とタイミングよく出くわしたので、状況を説明すると、

「見てみましょう。今でも大丈夫ですけど?」と言われ

「え? いいでんすか!?」と飛びついておきながら

「あ! い、いや、や、やっぱりダメ! ダメです。てか、えっと、つまり…あ、あの…またお声かけさせていただきます」と急ぎ訂正する、ああ、なんたる情けなさ。

その後もなんだかんだと時間がなく、たかが玄関から洗面所までの動線を掃除するだけのことが果たせないまま、朝の身支度には確実に影響を及ぼしていたようで、地下鉄の窓に映る自分の顔を見て「あらいやだ、右の眉毛がちょっと描き足りないじゃないの」とか、会社のエレベータの鏡で「げげっ、白髪がこんなに生えてきちゃったじゃないの」なんて事態に。結局、電気屋さんを呼べたのは翌週の週末になってからだった。

アポなしで上がり込んでも片付いているイタリア人の家

01

ふと、こんなとき、イタリアの家庭だったら「今夜行きます」と言った電気屋さんが来ないってことはごまんとあっても、せっかく来てくれるという電気屋さんを部屋が散らかっているからと追い払う家なんてありえないだろうなと思う。

だって、いつ、どこの家に行っても、必ず片付いているのだもの。それも客人を迎え入れるために事前に周到に片付けをするというわけでもなく、たとえば、私たちより先に家に帰っているはずのマンマが買い物から帰ってこない、連絡もつかない、鍵も向こうが持っているから家にも入れない。でも外は寒い。途方に暮れているとアパートの上階に住むおばさんが「あら、かわいそうに。うちで待ってなさい」と家に入れてくれる。突然、お邪魔することになったというのに、隅々まで掃除が行き届いていて、ソファの上にはひとつの私物もない。子供が「うんち〜」と言い出してトイレもお借りするが、これまたホテルのようにきれい。

予約していた常連の宿に到着してみると、向こうの手違いで最初の夜だけダブルブッキング。「ごめん! リツコ。でも心配しないで。今夜だけ僕らは妻の実家で寝ることにするから、君たちが僕らの家で寝ておくれ」といきなり通されることになった家だって、床の上に放置されているのは子供のおもちゃくらいでびっくり仰天したことも。

なんで日常的にこんなに片付いた状態でいられるんだろう。

自分の寝床でさえ起きた後にきちんとベッドメイキングしたりとか、靴下にまでアイロンをかけるとか、イタリア人ならではの美意識習慣もあるけれど、いちばん大きな理由は、そもそも「モノが圧倒的に少ない」からだと思う。洋服だって、食器だって、おもちゃだって、なんだってそう。

02

5年ぶりに訪ねた家に着いて「リーッツ! 待ってたわよ〜」と玄関から飛び出して来たマンマが、5年前と同じワンピースを来ていたなんてのは、私の中ではかなりのあるある体験だ。

同じく、皿やマグカップも、よく割れたりかけたりしないもんだなと感心するくらい、最初にこの家に来た時と何年も変わらない家がほとんど。

しかしだからといって、彼らがものすごく質素な生活かというと、そうでもない。昼間のビーチではボロボロのビーサンに、破れかけたビニールのエコバッグを提げているのに、夜の街に出かけるときは、といったって家からたった5分の地元なのに、アイラインまでバッチリ入った化粧して、高そうなダイヤのネックレスや大きない真珠の指輪をつけて、おしゃれなスカートにハイヒール、バッグはなにげにフェンディだったりするのだ。

なんというか、メリハリの演出が身についているんだな。だから、どうでもいいようなコマいものにお金を使わない。でも、ここぞというものや、一生モノにはバーンとお金を使う。

自由が丘でぶらぶら歩いてふらりと入った雑貨屋で、うわあ、かわいい〜とどうでもいいような置物や、たくさん持ってるのにまたマグカップを買っちゃった、なんてことは彼らにはない。

バーゲン初日にデパートに繰り出して片っ端から店を物色し、シーズンの流行りアイテムをしこたま買うなんてことも、きっとない。

本当に大切なものは何かが肌感覚でわかっているのだ。その自分の感性にしたがって行動すれば自ずと消費行動もシンプルになるということだろう。

よし! 私も料理ばっかり習うのではなく、こういうところも見習わねば。どうでもいいようなものでは勝負しない、で、大事な物には惜しみなくいいのを選ぶ。これだ!

さて、となるとだ。もし一個だけ一生持ち続けるバッグを手に入れるとしたら、私ならどこのバッグかなぁ。フェンディかなあ、トッズかな、ううむ、やっぱりロエベかなあ。

あれ? そういうことじゃなくて?

てか、まずはとっとと洋服の入れ替え済ませて、とっとと部屋を片付けろよ。ですね。へいへい。

山中律子 イタリア家庭料理研究家

慶応義塾大学法学部政治学科卒。電通にてコピーライターとして勤務の傍ら、イタリア家庭料理研究家として活動。毎年、子連れでイタリア各地の田舎を旅し、アグリトゥーリズモや農家のマンマに料理を習う。自宅で料理教室や料理イベントを主催。著書に「トルテリーニが食べたくて」。

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