しごとなでしこ - SHOGAKUKAN

「Festa di Castagna」(栗祭り)なるものがさかん!イタリアでも栗は秋を代表する重要な食材なんです

秋だから、鼻息マック

そろそろかな? まだかな? 毎年この時期になると、そわそわして仕方がない。長かった夏が終わり、ようやく私の季節がやってくるのだもの。スーパーなど早いところではすでに小粒のものが並び始めたのは認識している。

頭の奥で「パーン!」とスターターピストルがかすかに鳴りそうになるも、よく見ると色もドス黒く、一年間冷蔵してたやつなんじゃないのってくらい干からびていたりするので、ぐっとこらえて手を出さない。

さて、もう何のことだかお察しいただいたと思う。そう、「栗」である。

最後の晩餐は栗と決めているほど、大の栗好き、いや、周囲には栗バカと言われてもう20年近くになるだろうか。

01

早くゲートを開けてくれよと鼻息荒い競走馬のごとくウォーミングアップもイメージトレーニングもばっちりの私に、美味しい栗のシーズン到来を告げてくれるのは、銀座に本店を構える老舗フルーツパーラー千疋屋。熊本産の早生ものを皮切りに、品質のいい栗を厳選しどこよりも早くマロンパフェを始めてくれる日こそが、私の中で、本格的に「よーい、ドン!」のピストルが鳴る日なのである。

02

それからの毎日は忙しいったらない。あっちのパーラー、こっちのケーキ屋と食べまくり、産地からブランド栗を取り寄せて、家でも朝に晩に夜食にと栗三昧。自慢じゃないけど栗剥きはプロ級かも。普通の包丁で目をつぶってでも剥ける。本当です。

ちなみに今年のマロンパフェは、店に確認したところこの原稿を書いている日の翌日から始まるのだそう。つまり、いま、この瞬間の私は一年でもっとも鼻息の荒い馬状態というわけだ。

毎週末、どこかの村で栗祭り

03

ところでイタリアでも栗は秋を代表する重要な食材のひとつ。

毎年10月くらいになると、家の暖炉で栗を焼き、広場には焼き栗屋台(カルダロステ)が出て街じゅうが香ばしい匂いに包まれる。ポケットに袋ごとつっこんで、道を歩きながら、バスに乗りながら頬張るのはまた格別。

また、トスカーナ州からウンブリア州、エミリア・ロマーニャ州あたりの丘陵地帯の栗の産地では、「Festa di Castagna」(栗祭り)なるものがさかんで、毎週末、どこかしらの村でやっているといってもいいくらい。栗の焼き菓子、栗のニョッキ、栗の揚げパンなどさまざまな屋台が並ぶ秋の風物詩だ。その昔、単身で初めて料理修行にいったとき、「そんな夢のようなお祭りがあるなんて!」と喜び勇んで足を運び、かたっぱしから食べまくったのだが…、しかし、どれもこれもそんなに美味しくない。というか、栗の味がしないではないか。
理由は、「栗」ではなく「栗の粉」で作っていたから。イタリアでは貧しい時代から栗は小麦粉に代わる貴重な栄養源。粉にして一年をしのぐ、その伝統的な穀物としての位置付けが今も残っているのだ。

パ スティッチェリア(パティスリー)で売られる唯一の栗ドルチェ「カスタニャッチョ」も、同じく栗の粉だけを使ったねっちょりした茶色い焼き菓子で、甘みも脂肪分も足りないし、おいしいかといえば、ううむ、かなり微妙。かといって、他の栗ドルチェが編み出されるでも、話題になるわけでもなく、結局は栗を味わうならただの焼き栗「カルダロステ」がいちばんだよね、という結論に落ち着くのだ。

ニッポンVSイタリア

ひるがえって、デザート大国ニッポンはすごいぞ。

この時期はデパ地下には「期間限定」の文字が踊り、おまんじゅうにも栗、パンにも栗、大福にも栗、ムースにもプリンにもアイスにも栗…と各店がしのぎを削って「栗もの」の新作に躍起になり、秋の一大商戦のひとつと化している。経済効果も大きいのだろう。

私も若き栗バカ時代は、 限られた期間にしか食べられない新たな栗スイーツの発掘に命をかけた時代もあった。しかし、こうも長いこと食べ続けていると、栗に対する舌も肥えてきてお気に入りも淘汰されるし、流行のスイーツに栗だけ取って付けたようなものは興味もわかない。最近は長年の栗バカ人生の果てにたどりついた、自分が本当に旨い! と思えるものだけを、シーズンが終わるまで存分に食べることができればそれが一番贅沢だと思うようになった。

上述のマロンパフェは、甘さ控えめに栗本来の味わいを生かした甘露煮栗ゴロゴロ&バニラアイスのみの必要最小限の構成がすばらしい。茹でた栗を裏ごして丸めただけの茶巾しぼり栗き んとんも栗本来のクオリティがものをいうから食べ比べると意外と違いは歴然。私は、都内のデパ地下にも卸ろさず、地方発送も不可、予約も不可(つまり朝一番で本店に買いに行くしかない)という小布施の桜井甘精堂のそれが、ホクホクと栗の風味が生きていていちばん素晴らしいと思う。同じく小布施の老舗、小布施堂の、一人前に高級栗を20個以上も使用するという整理券なくしては口にできない幻の和スイーツは極上の栗をむせるほど頬張るかのごとき幸せの極み。

そして、これらをゆっくりと味わいながら、最高の賛辞を叫ぶのだ。

「ん〜、おいしい! 栗そのものって感じ!」

むむ。ここでふと、自分で自分にツッコミを入れたくなった。

「栗そのものであること」が一番なら、「栗そのものを食ってろよ!」と。

そうなんだよな。栗スイーツを追求すればするほど、最後はただの栗にたどり着く。大地の実りをめいっぱい味わうというのは、結局、そのものを極力シンプルに食べる。ということに尽きるのだ。

そう考えると、イタリアの焼き栗ってもしかしたら究極の栗スイーツなのかも。

このご時世に及んでもなお、栗の粉を使った食料としての栗以外には、「栗」といえば焼き栗しかないイタリアの潔さ。経済効果なんてものには見向きもせず、ただただ焼き栗だけを作りつづけ、そして買い続けるという彼らの無欲さ。

とかく怠け者の象徴みたいに片付けられがちなこうしたイタリア人気質だけど、本当に美味しいと思うものだけを大事にしていけばそれでいいという徹底した姿勢は、イタリア人ならではの美学なんだな。

食材に対する敬意って、つまりはそういうこと。本当の豊かさって、つまりはこういうこと。

04

ああ、無性にカルダロステが食べたくなってきたぞ。

鼻息マックスの馬は、明日ゲートが開いたら一足飛びに銀座、じゃなくてイタリアに飛べたら、どんなにいいだろうか。

前回のコラムはこちら

山中律子 イタリア家庭料理研究家

慶応義塾大学法学部政治学科卒。
電通にてコピーライターとして勤務の傍ら、イタリア家庭料理研究家として活動。
毎年、子連れでイタリア各地の田舎を旅し、アグリトゥーリズモや農家のマンマに料理を習う。
自宅で料理教室や料理イベントを主催。
著書に「トルテリーニが食べたくて」。

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