しごとなでしこ - SHOGAKUKAN

旅で訪れたら住みたくなった!「岐阜」で発見、新しい暮らし方VOL.4~移住を考えたときに大切なこと

続々と移住を考えている人が増えている。それはUターン、Iターン…様々な形で。旅するコラムニスト 松尾彩が岐阜で出会った移住者から、新しい暮らし方、働き方、そして生き方を学ぶ。

【CASE4】飛騨古川のカフェで出会った、まさに今移住を“検討中”の木村朋美さんの場合

2泊3日の旅程の最終日、宿の近くにおしゃれな木工カフェを発見し時間もあったのでぷらりと遊びに行った時のことである。そこでまさに今「移住するかしないか、考え中」の女性に偶然出会うことができた。

ここに来る以前は長野県の安曇野でパーマカルチャーの暮らしを実践するコミユニティスタッフとして働いていたという木村朋美さん。

そのコミュニティのイベントで出会った数人の“気になる人たち”が偶然にも全員飛騨の人だったという縁から、興味が生まれこちらに来たのだという。

FabCafe Hidaの2階に住み込みながらトライアルでPRスタッフとして働き始めてまだ1週間。これからもう少し滞在して、移住するかしないかを決めたいのだと語ってくれた。

彼女の人生の指針はすごくはっきりしている。
『“生きていくために仕事をする”、ではなく“暮らしの中に仕事を見つける”』ということ。暮らしと仕事、その両方の良い着地点を見極めるために今、ここで借りぐらし中なのだ。

話していてすごく“自分の人生”にまっすぐな人だと思った。聞けばそれは一度安曇野時代に徹底的に自分と向き合ったから、という。

「安曇野では住み込みの仕事だったので、本当にいろんなタイプの人に出会ったんです。自然や、活動や、様々な人を通して、“わかった”と言えるほど、自分と向き合えたと思います。そうやって異文化の中にいると自分が浮き彫りになるんです。もし自分が何者なのかわからない、そう感じることがあるなら、一度こういうところに来るのは良いことだと思う。自分にとって何が大切かわかると思います。ずっと同じような人が周りにいるとわからないですから」

そんな木村さんから見た飛騨はどんな街なのだろう。

「海外生活も長かったので風通しの良い環境で生活することが多かったんですが、ここはどちらかというとクローズな場所だな、と感じています

たとえば、地元の人の本音が見えづらいというところはあります。何かをした後、その反応が直接ではなく100日後に違う人から帰ってくる感じとか(笑)。あと先輩移住者ご夫婦の体験ですが、行事などの集合時間を聞いても”神様の通る時間”としか教えてくれないんだそうです。“それは太陽が昇っている時間? それとも何かサインがあるの?”と悩んだそうですが、誰に聞いても『だから神様の通る時間だよ』、と。そのご夫婦は回数を重ねて、推測して今はなんとなくわかるようになってきたそうですが(笑)」

クローズは決して悪い意味ではない

でも(“クローズ”は)いい意味でもあります。新しいものではなく伝統を大切にするところとか。移住者はその伝統に惹かれてくるわけですし、ここでの暮らしがいかに贅沢なことかに気づくこともあります。ある日(飛騨の)工房の人が作ったお茶碗で地酒やお味噌汁を飲んでいたんですが、ふと“これって超贅沢! オールメイドイン飛騨じゃん!”って思ったり。そういう背景や文化を思い浮かべつつも、自分の大事なことも大切にしたい。その擦り合わせにどのくらい時間がかかるかを今見極めているところです」

ここではPRの仕事を主にしているが、海外経験を生かした英会話講師や、フリーライターとしても活動していた木村さん。若い時は都会で仕事をする方が楽しいと思っていたけれど、20代後半になった今は地方の面白い人たちとムーブメントを起こすことが楽しくなってきたそうだ。

「ただ、(移住は)今じゃないのかな、とも感じています。ここではやっぱり仕事が少ない。観光業なら仕事はあるけれど、自分がやりたいなって思う仕事は少ないんです。それに海外の友達がこっちに来たくても日本語学校がないとか、携帯が壊れてもお店が富山まで行かないとないとか、不便なことも感じます」

ただ、その不便さは“今の自分だから”だともいう。

「今は暮らしと仕事、その両方が欲しいと思っているから(携帯電話のことも)不便と思っているだけで、仕事を選ぶか、家族を選ぶか、不便さは人によって違います。たとえば私が家族を持って、子供を持ってとなったらきっと携帯電話の故障なんて優先順位はずっと低くなる。そういう意味でいうと、ここは“暮らす”にはとてもいい場所なので、(もし、今移住しなくても)将来また来ることもあるかも」

冷静に飛騨での生活を見つめる彼女が答えを出すのは、きっともうすぐだろう。その強さに甘えて、“移住する第一歩”に必要なことを聞いてみると“自分を知ること”という答えが返ってきた。

「たとえばお金のことでいうと、日頃どれくらい生活費いるか、貯金あったほうがいいかなくてもいいかを把握してると動きやすいというのはあります。もちろんお金なくてもどうとでもなるけど、お金がなくて身動きができないこともある。慎重な人はお金もちゃんと計算してから来ればいいし、感覚的な人はご縁でそのまま飛び込めばいい。

ただ私は“自分がどういう人間か、どういう場所に違和感があったり惹かれたりするか”を徹底的に自己分析したから、飛び込んだときに余計なことを考えずに集中できたんです。お金のことも含めて何も知らないまま来ると準備に気持ちが取られてしまって、目の前のこの時間を感じられない。だから自分を知ることは大事かもしれませんね。でももし『(考えても)わかんない!』ならとりあえず飛び込んでみてもいいかもですよ(笑)」

▲彼女の働くFabcafe。リノベーションされた店内が心地いい。

当たり前に存在する大自然が、子供だけでなく大人の五感も伸ばしてくれる

普段ちゃらんぽらんな猫のコラムを書いてる身が今まで出会った人の話をまとめるのはおこがましいが、家に帰って猫を撫でつつ今回の旅を振り返ってみた。

改めて気づいたのは「都会にいないとできない」ことは実はそんなに多くはないということ。今や欲しいものはほとんどがネットで手に入る。確かにお洒落なお店や人気のレストランは多いけど、都会に住んでいても毎日そんなところに通う人なんてほとんどいない。家賃も交通費も高いから給料のほとんどはそういうものに消えていく。

もちろん東京を含めどこの都会にも本当は街ごとに個性があり、そういうものを見つけられて楽しめる人はどこにいても問題はない。でも意味もなく都心に住むだけでは、お金も時間も最終的に自分のものにならない生活しかない。それはとてももったいないことなのかもしれないと思った。

今回訪れた飛騨に話を絞れば、“移住”は決して夢物語ほど遠い存在ではないというのも感じた。“自然”や“美味しい水、空気”が近くにある暮らしも、想像よりは手がとどきやすい

現実的な話をすれば、観光地ゆえに住み込みの仕事も多い。ということはシングルマザーの人や、シングルファザーの人にとってはすぐ手に入れられる仕事のチャンスがある。木工スクールで手に職をつけるという選択肢もある。そういう土地柄だから行政も移住には積極的だ。周りとのコミュニケーションも含めや移住相談にも乗ってくれるし、これからはシェアハウスなどを進める計画もあるそうだ。

中安さんをはじめ、食を中心に循環型の生活へより具体化する取り組みが進んでいる。そのおかげで体に良い旬のものを手に入れるチャンスは都会よりもはるかに多い。

飛騨では当たり前に存在する大自然が、子供だけでなく大人の五感も伸ばしてくれる。

「田舎コミュニケーション」も、結局は自分次第だ。都会の隣近所の顔も名前も知らない生活、というのは逆を返せば自分も誰からも知られていないということである。CACE1で出てきた『君の名は。』くんたちのようにそれが心の底で寂しい、と思ってたことに気づくこともあるかもしれない。

そんな風に「飛騨移住」には魅力的な条件はたくさんあった。

けれどもその魅力を感じることができるのは、不便と責任を楽しめてこそ、というのも知ることができた

と、ここまで真面目ぶって書き進めておいて何だが、最終的に結論を出すならば、“とりあえず飛騨は自然も食も美味しくてそれはもう楽しいとこ”でした、に尽きる。

移住したい人も、してみようかなの人も、とりあえずブラブラしたい人も、まずはのんびりとツアーではない旅を楽しんでみるのをお勧めする。

普段より心が解放された中でみる飛騨は、きっといっぺんで好きになるところですよ。

協力/飛騨市役所

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コラムニスト 松尾 彩

こらえ性のない飽き症という特性を生かして、雑誌からカタログ、ウエブコラムまでつれづれなるままに活動中。夫婦料理ユニット「#サイトウのゴハン」ディレクター。

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