しごとなでしこ - SHOGAKUKAN

旅で訪れたら住みたくなった!「岐阜」で発見、新しい暮らし方VOL.3~「人を育てる」ための移住のヒント

続々と移住を考えている人が増えている。それはUターン、Iターン…様々な形で。旅するコラムニスト 松尾彩が岐阜で出会った移住者から、新しい暮らし方、働き方、そして生き方を学ぶ。

「食」や「子育て」からみた移住

飛騨は何と言っても水が美味しい。長い長い冬を越えた水はとても澄んでいて、飛騨の多くのエリアは地下水をそのまま水道水として飲んでいるほど。

そしてやはり水のうまい地方は食べ物もうまい気がしてならない。野菜や動物を育てるには、日光や餌なども必要だけど、やっぱり根っこのところ、水の美味しさは確実に味に影響を与えている気がする。

移住を考えている人の理由の中でも「アトピーなど子供や家族の体調のために、水や食べ物が安全で美味しいところに住みたい」、というのは多い。飛騨にもそういう理由で移住相談に来る人が少なくないとか。

少し話は変わるが、以前愛知県で有機栽培をしている農家の知り合いから旬の時期の春菊をもらったことがある。大げさでなく「今まで食べていた春菊はなんだったの!?」レベルでそれはみずみずしく、苦味もえぐみもなく、ほんのり緑の良い香りがして、びっくりするほど甘かったのである。

人間びっくりするほど美味しいものを食べると、素直になる。その時思ったのは「(きちんと育てられた)野菜ってうまいんだなあ」という素直すぎて普通すぎる感想だった。

が、「野菜ってうまいんだなあ」と思ったその次は、「そういやスーパーで買ってる野菜、最近“美味しいから”食べたいって思ってないなぁ」であった。もちろん全国隅々まで供給を満たすためにある生産力向上のための農法や、物流システムは私たちの生活を豊かにしてくれたものであるし、その恩恵を受けてる限りそれを善悪では判断できない。

けれどやはり便利さを得た代わりに「旬」を手放してしまったことに改めて気づく。ただ最近は農家やスーパー側の尽力もあり、“生産者の顔の見える野菜”も増えつつある傾向もある。

手放してしまったものの、やっぱりみんな「旬」のものが恋しい気持ちは忘れられないのだ。と、昭和の恋物語みたいな話になってしまったが、本題は“食”や“子育て”からみた移住である。

【CASE3】“作り物っぽい都会”への違和感があった。「オーベルジュ 飛騨の森」中安俊之さんの場合

お話を伺ったのは高山市で宿「オーベルジュ 飛騨の森」を経営するオーナー兼シェフの中安俊之さんだ。

美味しい地元の野菜はもちろん、みずから手がけるエアルーム野菜(人為的に交配されていない、原種の野菜。ちなみに25年タネを取り続けてできたものが“伝統野菜”。50年経ったものがエアルーム野菜に定義される)などがイタリアンシェフ中安さんの腕を通して味わえる。

▲「オーベルジュ 飛騨の森」を経営するオーナー兼シェフ 中安俊之さん

おいしいイタリアンと、そして飛騨の匠の技を取り入れた居心地の良い宿の佇まい。日本のみならず世界各国の人々が、この静かなる情熱を求めて訪れる。

▲宿のロビー。ここが日本だとは思えない。

料理を通じて飛騨の自然を自由に繰る中安さんであるが、実は彼は東京出身である。現在40代前半の中安さんは渋谷や原宿などを中心とした「東京ストリートカルチャー」が花開いた時代、そしてそれを思う存分に浴びてきた世代の人だ。

当時の彼は東京でのカルチャーライフを楽しみつつも、20代に入り本業であったイタリアンのシェフとしての腕を磨くべくイタリアやオーストラリアに渡った。妻の実家である高山市にオーベルジュを構えたのは3年ほど前のことである。

▲滞在者からのメッセージ。その多くが外国人だ。

土地への愛とか変わらない文化を生成されている「地方」のほうが文化の成熟度が高い

ずっと東京は日本一だと信じていました。日本にいた当時やっていたカフェやイタリアンも成功していたし。でもイタリアに渡ったときに、ワイナリーなど、“地方にプロダクト”があるという姿の良さを感じはじめたんです。基本的にはイタリアの地方を回って仕事を続け、たまにフィレンツェやミラノなど都市部に行くと違和感がありました。なんていうか作り物っぽい。田舎にいればいるほど地域愛とか物に対しての愛情を感じます。ほかのものに興味がなくても、自分たちのものだけあればいい、というのはかえって幸福度が高いことだとそこで知ったんです」。

東京育ち(しかもおしゃれカルチャー世代)だったからこそ、実際に文化的に豊かな海外地方暮らしを経た中安さんの、“作り物っぽい都会”への目は厳しい。

「イタリアで数年働いた後、シドニーへ行き10年弱ほど働きました。シドニーは日本から見ると、“都市型だけど田舎”のイメージをもつ人が多いですが、ここ5年くらいでとても良いレストランが増えたんです。正直、日本よりよっぽどレベル高い。しかも、自給率200%で意識も高い人が多いし、お金もある。だからデフレじゃない状況でちゃんと生活を考えられているんです。シドニーでのお店を気に入ってくれた人がいて、その縁で東京でもお店を出店したんですが…つまんなくてやめちゃった(笑)。

その前から飛騨に移住していたので東京の仕事はこちらと同時にやっていたんですが違和感しかなくて。僕が日本を出る前は、まだまだ日本のイタリアンもカフェもでき始めたばっかりで発展途上だった。(海外に行っていた)15年弱の間にどのくらい成熟したと思ったら、 “ファッション”や“ブランド”という名の元に商業的で飽きっぽくて、人の流れも悪くて、という風になってしまっていて。新しいものにキラキラ惑わされてると感じたんです。何より住んでる人がそれをわかってないんじゃないかな。知らず知らず“人に左右されている価値観”がいいと勘違いしている街だなあって思ったんです

このオーベルジュのお客さまの9割は外国人なのですが、パリやロンドンから来た人がみんな“パリは嫌だ、ロンドンは嫌だ”っていうんです。“あれは(フランスやイギリスではなく)外国だ。流入するものが多すぎて自分たちがもっていたアイデンティティが薄れてる”って。そんな話を彼らと話していると、やはり土地への愛とか変わらない文化を生成されているところのほうが文化の成熟度が高いと感じる。日本もそうあるべきなのになあ」

田舎の暮らしは、決してスローライフではない

かといって、“田舎”のすべてを賞賛しているわけでもない。

実際、観光都市としての側面が高い高山市では、移住で「いい野菜」「いい土地」を求めても、なかなかなかったりもするそうだ。自然豊かな土壌があるにも関わらず、「循環型の生活」の本質を知る人もまだまだ少ない。それに、田舎への移住と聞くと、代名詞のように「スローライフ」という単語が出てくるが、そんな聞こえのいい生活はないという。

“移住して楽しいよね、スローライフだよね”っていうのは嘘です。田舎は決してスローライフではないんです。とっても忙しい。何より人じゃないものに左右されるんです。たとえば雪とか温度とかにしょっちゅう左右されるし。でもそれがすごく楽しくて、幸福で、そこから発見することが文化の成熟度につながるんです。

それもなくて“ゆったり楽しい”みたいなイメージで移住をしちゃうと違和感を感じて『何もないじゃん』になる。こっちに来て(田舎の生活が)おもしろいと感じる人たちは、“ない”ものを“ない”と諦めるんじゃじゃなくて、“ある”ものを楽しんだり、研究したりしています。木とか畑とか循環型社会とか。

忙しいしスローライフじゃないけど畑を作ったり、肥料を研究したり、そういうものって日本だけじゃなくて実は世界で戦えるものなんです。労働に対する面白さ、スローライフじゃない面白さこそ人間の本質だと思う。それをわからずに移住が楽、という人には抵抗があるけど、もしもそういうものに自分たちの本質や幸福度を見出せる人は、ぜひ、移住したほうがいい。それは東京や都会にいては絶対に体験できないことだから」

▲宿の前に積み重ねてあった、たくさんの薪。これもすべて中安さんの手によるもの。

世の中の人は、「美味しくないものを高く買って、美味しいものを更に高く買っている」状態

今、中安さんは「オーガニック街道」というプロジェクトを始めようとしている。川でつながる高山市、飛騨市、南砺市の3つのエリアをつなぐ、オーガニックの道。

「“オーガニック”ってよく聞くけれど、本当に何がオーガニックかわかっている人は少ないんですよ。なんで緑が濃いと美味しいと思われてるのか? 野菜は甘いほうが美味しいのは本当か? そういうのを答えられない。

たとえば飛騨や高山の水が、下流の南砺市に流れていくけれど下流のエリアでエコや無農薬ですって言っていても、上流で農薬を使っていたらエコなのか? という話になりますよね。だから川でつながる3つのエリア全体で、きちんと意識を変え、オーガニックをつなぎたい。その意味を込めて“街道”という表現なんです」

そもそも、オーガニックとは“食材そのもの”ではないし、断定的に“有機”を示すものではない。中安さんから有機とは何かという説明や化学式なども教えてもらったが、あまりにも難解で理解をするには少し時間がかかりそうだった。なので、ここでいうオーガニックとは、「循環型の生活」とか「循環型の社会」と考える。

そして、その循環型の社会をつくるには、雪で休む事、土地を健康に保つための理論、また畑に関わる木や水などの自然、それら全部がつながっている。だから中安さんも自分だけでなく、行政や農家さんなどさまざまな人と関わっているのだ。

「今は飛騨市、南砺市とは賛同を得て話し合いを始めています。高山市は観光都市として成功しているのでなかなか難しい。どこでもそうなんですが、問題があるところほど“よくしなきゃ”という声が出て、結果よくなっていくんです。今、成功してやっていけているようなところはそういうのにあぐらをかいてしまいがち。本当はアレルギーや病気などと付随していく問題なのに、不満がない人は蝕まれているのにすら気づかないんです。

それは田舎でも東京でも一緒。世界ではすでに気づいて取り組んでいる問題なのに、日本は他の先進国ほどエコやオーガニックは進んでいないと感じます。オーガニック街道の趣旨は、“それをなんとかしないとね”というもの。飛騨にも探せばきちんと循環型の生活をしている人がいるんですが、まだまだ少数派。少数派だからこちらがおかしいと言われることも多い。多数派、一般論にしていかないといくら偉そうなコトを言っても普及していかないし、形にもならない。だから連携しましょう、と」

▲オーベルジュの1階にあるダイニングスペース。地元の新鮮な野菜を使った料理が楽しめる。予約をすれば、宿泊者以外も利用可能。

オーガニックと言われる野菜はもちろん口にしたことはあるし、美味しいのも知っている(冒頭の話)。でも高いんですよね…と主婦的な言葉を漏らしてしまった。

「本当はオーガニックの野菜って多収(たくさん収穫できる)なんですよ。旬を無視して農薬を使うと1回の収穫量は少ないんです。だからたくさん農薬を使って、とにかく数をこなしているだけ。本来は多収だから値段もそこまで違わないし、もしも収穫量少ないならそれは栽培が下手なだけ。(価格が高いのは)それ以外にも、もちろん政治や組合の問題もあるけどね」

正直、「オーガニック」と書いてあるだけでうっかり“高くてもしょうがない。だってオーガニックだもの”な考えなしの賞賛が自分の中にあったのは否めない。無知の中で考えるオーガニックは、なんだかハイレベルすぎておしゃれで、質が良くて生産量が少なくて、貴重で高いものが当たり前だって思っていた。

でもよく考えれば「美味しいけど高いなあ」という素直な感想も時には必要なのである。もちろんそれがただの“一方的文句”では話にならないが、「美味しい。もっと食べたいからもう少し安く」なんていうコミュニケーションがなければ適正価格は生まれない。もしももっと旬なものを求める声が高くなれば、それに合わせて物流も変わる。ならば声をあげていないのは私たちの方なのである。

中安さん曰く、「美味しくないものを高く買って、美味しいものを更に高く買っている」状態なのだ。しかし具体的になぜ飛騨の野菜はこんなにも美味しいのだろう

答えは“雪”です。雪が降って、“休む”ことが大事なんです。休まない土地はどんどん痩せていくけれど、雪で休むと土の中の(農作物に必要な)菌も落ち着いたり増えたりします。雪がたくさん降ると不便だけど、この不便が野菜を美味しくするんです。僕もそれを最近勉強しました。それまでは水や空気や土地がいいって思っていたけど、雪で休む事、つまりは自然の中で無理のなく過ごすと美味しく育つってわかったんです。

ちなみにイタリアでは8月は“フェリエ”(休み)になります。この時期は高温になるから畑も休ませ、野菜も休ませ、人も休む(バカンス)。だから8月イタリアに行っても観光地以外、ほとんど店は空いてない。でもその時期がきちんとあるからこそ、イタリアの料理は美味しいんです。

本当はどこの土地でもきちんと休めば美味しい野菜は育つんですけどね。でも今のシステムだと人も畑も『休もう』って言えないところが多い。それが飛騨では『いやぁ〜雪が降ってしまってすみません、雪じゃどうしようもないですよね〜休みますね』って言えるんですよね(笑)」。

▲取材に訪れたその日も飛騨の街は雪で覆われていた。

自分の価値は自分で上げていかないといけない

中安さんが「オーガニック街道」を共に進めようとしている仲間を紹介してくれた。江戸末期から続く「渋草柳造窯」の戸田柳平さんである。(ちなみに中安さんとは出会って3分で仲良くなったんだとか)。

▲写真右が戸田柳平さん

渋草柳造窯は「飛騨の土」を使うこと以外、代々のセンスで作風が変わるというユニークな窯だ。

実は戸田さんは大学卒業後、“焼き物は向いていない”とさらにイタリアの大学へ進もうとしていた。だが家業に危機問題が起き、現在は職人の傍ら経営や企画に携わっている(次期当主として弟さんが近代7代目を継ぐ)。

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▲戸田さんの手がける作品

「最初に焼き物から離れたのは、“同じ価値観で同じものを作り続ける”ことに疑問があったんです。たとえば中安さんの作る料理は、イタリアンなんだけど、今まで食べたことのないような感じなんです。でも“イタリアン”の本質は変わらない。だから何をしてもブレない。自分も『飛騨の土』を使うというアイデンティティは大切にしながらも、さまざまな形のものに挑戦したいんです」。

戸田さんが手がけたものの中には、たとえば飛騨のふたつの営業所(本店と支店)の土をそれぞれ外と内側の釉薬として使用した器を作ったり、結婚式の引き出物として両家の土を混ぜたりとユニークなものも多い。渋草の本質は変えずにさまざまなプロダクトを手がけ続けている。

今の安価すぎる皿は“再利用”という名の、すごく質の悪いものの寄せ集めでできているんです。それは再利用とは言えないし、もちろん体にも悪い。だからこそ自分たちの作るものの“土地に対しての責任”が強くなりました。時代のニーズに合わせて形は変えていくけれど、大量生産も安売りもしない。でもそれは自分への課題でもあります。自分の価値は自分で上げていかないといけない。というのも田舎でものづくりをしていると、自分の価値や資産価値がわかりにくいという経験があって。田舎の妙なコンプレックスを勝手に思い込んでいたんですね」(戸田さん)

「田舎の人って、せっかくの面白いものを“都会の人が好きそう”なものに寄せちゃう所あるよねぇ」(中安さん)

「そうなんです(笑)。たとえばヨガマットとか、田舎は畳があるのにそれ必要? って思うんだよね。コンクリートの都会ならわかるけど。田舎でマットなんていらないでしょ?」(戸田さん)

「(せっかく土があるところなのに)力を大地からもらいなさいよって話だよね(笑)。都会でも田舎でも、本質的なことがわからないまま形に捕らわれようとする人は多いよね。物事に取り組むってことは自然と対話するってこと体や心とどう向き合うかが大切で、それを自然から学ぶだけなのに。

ヨガやったら体にいいでしょ、じゃなくて体の健康や自然との対話の中で自然とそれが必要になっていくってだけ。それを踏み外したら田舎も面白くない、都会も面白くない。そうやって違和感しか生まれなくなる。でもその対話の面白さが理解できるなら田舎ほど面白いところはないよね」(中安さん)

「まあ都会にも田舎にも、どこにもメリットデメリットあるよね。でも僕は東京行くの楽しいよ(笑)。仕事しに行ってるからもあるけど。サービスとかクリエイトすることに結果出せてる人が多いから刺激は多い。だからそれを学んでどう自分たちの持ってるものをくっつけて、どう新しいことをできるかを考えられるし立ち位置を学べるし。(都会より)足りてるものも勝ってるものもあることに気づけたし」(戸田さん)

故郷だったからこそ全体的に東京に対して超辛口な中安さん。地元民である戸田さんがちょっとだけ優しいコメントをくれました(ほっ)。

親が楽しめば子は勝手に育つ。違いや矛盾を楽しむ。それが本来の「子育て」や「野菜育て」

「移住、という話をすると、やっぱり(いい環境で)子育てしたくって、って人は多いと思います。が、子育てとは“子供のためじゃなくて親の自分勝手”で子育てをしているってわかってる人はほとんどいないと思います。僕も働きながら育てていますが、子供のためじゃなくてまず自分が楽しくて、そしてそこに子供がいるのが当たり前、って思っているんです。当たり前の中で親が勝手にやっているのを見て育ってもらいたい。仕事場にも連れ回してお客さんにも相手にしてもらってるからまったく人見知りもないんです。そして早く独立(ちなみにまだ8か月の赤ちゃんです)して欲しいですね(笑)」(中安さん)

▲中安さんの8か月になる息子さん

「自分の生活とか仕事が“自分だけのもの、プライベートなもの”って都市型の考えは本当におかしいなぁって思う。だって地域の中に子供がいるのは当たり前、おじいちゃんやおばあちゃんがいるのは当たり前なんです。でもだからといって何でもやっていいかとはではなくて、いるのが当たり前だからこそ、節度が生まれてくる。それをパブリックスペースで教えていかないといけない。

それがわかっている文化は成熟しているんですが、日本は今そういう面でどんどん海外に追い抜かれている。そうやって日本の文化の成熟度が下がってることに気づかない人多すぎると思います。特に東京の人。都市型、都会型が良いという時代は高度成長期までだったのにそれが終わった今、どんどん抜かれている。じゃあどこで学べるかというと多分やっぱり田舎。田舎で本質的なことに触れないといけない」(中安さん)

さらに手厳しさを増す中安さんだが、すごくドキっとした言葉があった。
「東京はなんでも普遍的、均一的になるのが良いと思ってる」という言葉だ。これはカルチャーもそうだし、一年中採れる野菜もそうだし、例えば冬でも暖かすぎる家や、必要以上に暑すぎる電車の空調、エアコンで暑さを排除した夏、そんなものも含んでいる。

確かに数十年前は「夏が暑くて冬が寒い」が当たり前だったし、八百屋に並ぶ野菜は季節で変わっていた。いつから「暑すぎるのも寒すぎるのも買える野菜がバラバラなのもありえないわ〜」になってしまったのか。まだ八百屋さんが全盛期だった時代を経験していたはずの私でも、そういえばその変化にはまったく気付いていなかった。

普遍的なものって実は面白くないんです。いろいろな変化や変わることが楽しいのに。寒いから暖かい日が恋しいし、暑い日があるから寒い日が楽しいし、水がある、雪がある、子供が成長する、人が変わるのが楽しいのに。“小さなプライベートで均一された世界が楽しい”っていうのは都市の勘違いだと思います。安定的な収穫、安定的な空調なんてまやかしなのに」(中安さん)

「トマトが一年中あるのが当たり前って思うなって思うよね(笑)。もちろんこの辺りでも旬を無視した野菜が一年中売っているけど、僕たち家族は食べないです」(戸田さん)

「食べないっていうか食べられないよね。旬を無視したほうれん草は苦いし。有機栽培はわかりやすく言うと完全に自然栽培ではなくて、どうやって炭素や栄養素をきちんと土に入れるかという“勉学”なんです。堆肥作り、土壌作りを理解しないとオーガニックではない。だから野菜などが一定的にすべて同じものができると思っているのがもう間違い。子供もそうでしょ? 一人ひとり違った褒め方しないといけないし、叱り方しないといけないし、野放しでもいけないし。この矛盾をどう捉えるかが大事なのに。今の大人が『正しいってこうだよ』っていう言葉の説得力が薄っぺらくなったよね」(中安さん)

面白いのが、おふたりとも話しをするうちに「野菜」と「子育て」の話が自然と溶け合っていること。それだけ、そのふたつには共通点が多いということか。それと、それだけここでの子育ては自然と密接している、ということでもあるのかもしれない。

「堆肥もいちばんいいのは何か知ってますか? 人糞の堆肥なんです。それをいうと嫌がられるんだけど、実は人間の糞がいちばん炭素比率がいい。次が豚糞で安定性がある。牛糞は持続性長くて。即効性があるのが鶏糞。それを有機農法では使い分けています。

いろんなもの食べて、いろんな人がいて、いろんな異文化があるのが正しいストレスフリーの環境。例えばうちの宿でも、同じ国の人ばっかりがいるとめんどくさくなるんです。一人ひとりはとてもいい人なのに。でもそこに違う人種がやってくるとちゃんとバランスを取るようになる。堆肥も一緒なんです。おがくずと堆肥だと堆肥の方が汚いイメージだけど、おがくずは実は大腸菌だらけ。でも堆肥は大腸菌も他の菌もいっぱいいるから、大腸菌が悪さできない環境になるんです。

学校でも、“みんな頭良くて悪い人いない”なんてありえない。もしも“同じような頭のいい人だけ”集めたら必ずそこには極悪が生まれる。政治家も同じだね(笑) でも、いろんな人がいると、悪さする人が悪さ出来ない環境を作る。森も畑も同じなんです。でも日本ではすべて滅菌しちゃうから結局悪い菌が伸びちゃう。いろんな人がいていろんなものがあって、差別もあって、そういう世界の方が本当は差別がなくなるはずなのに」(中安さん)

確かに「違うものを受け入れつつバランスをとる」のは、たとえば食も同じだ。栄養が高いものであっても、それ“だけ”を食べていても健康、健全にはなれない。あらゆるものを食べて、それを消化するバランス力を持つのが本当の健全な健康なのだと聞いたことがある。

個人的な思い出だが、高校生の時に「いじめのない世界を作るにはどうしたらいいか」というディベートをしたことがある。その時に私が出した答えは、「結婚したら、全員違う国の養子を、しかも9人(9カ国)育てる制度になればいい」だった(なぜ9人かというと野球チームがつくれるなあと思ったからです)。

どの家庭でもありとあらゆる国の子供を持つ。そうすれば、たとえば「やーいお前んち日本人じゃないじゃん」的な差別は成り立たたないし、お互い差がありすぎて悪口の種を見つける暇がなくなると思ったのだ。もちろんこれはあまりにも子供の浅知恵ではあるが。

不便は便利より幸福である。田舎では子供の感受性が豊かになる

さて、「移住」を考えた時に、“距離”もひとつのハードルになることがある。たとえば私は子供の頃から日本各地転校を繰り返していたので“他県に住む”のはさほどハードルは高くはないが、ずっと地元だった人、都会で便利(に見える)生活を長く続けてきた人には案外そこが足かせになる場合もあるらしい。ただその本心は、場所云々、というよりはこれから降りかかるだろう“不便”への恐怖が強いといった方がわかりやすいかもしれない。

「日本はインフラ整備されてるからどこでも行けるのにね。あとね、“便利”はすべての正解じゃないんですよ。むしろ不便が幸福度を高めることのほうが多いんです。たとえば明かりが少なくて暗いからこそ星がきれいに見えるとかね。利点として捉えることが幸福度。欲しかったものがすぐ買えるより、ずっと欲しいと願って、やっと買えた時のほうが幸せを感じるでしょ。

飛騨も冬は野菜が取れないから、(その不便を解消するために)漬物文化が発達した。長い冬とか不都合なことがたくさんあって、春の山菜が喜びになった。不便を楽しむと、常に人と向き合っていくし、子育ても楽しくて、そして子供が(大人になって)離れても悲しまなくなる。そういうストレスマネージメントとどう付き合うかが大切」(中安さん)

もちろんこの不便への不必要な恐怖やマイナスの感情は、都会だけの問題ではない。「便利が良いもの」と思ってしまった大人が、次世代にそれを引き継ぎがちになるからだ。

「ときどき学校で講演会をするんですが、中学生くらいだと地元(高山)と都会どっちがいいかを聞くと実は『地元』って答えるんです。でも高校生は逆。みんな都会に行きたがる。それって子供の時には自然の良さを理解しているのに、大きくなってテレビや雑誌を見ると、そっちがいいものと思ってしまうということ。それって、“子供がいいな”、と思うものをちゃんと大人が聞いていないんだよね。もちろん全部聞くんじゃなくて線を引くことは大事だけど、子供が感じていた“森がきれいだよ、つくしが美味しいよ”っていうのを気づいて、伝えていくのが大事」(中安さん)

「子供の想像力って本当に豊かなんだなって思います。それはものをつくるだけじゃなくて、思いやりとかも想像力によるものだと思うんだけど、そういったことも子供たちはすごいんです」(戸田さん)

「それを維持したまま大人になる人が少ないよねえ。“子育て”が理由で移住を考えているなら、田舎の方が感受性は絶対に育ちます。移住というより原体験をさせてあげられる。人が教えるより自然そのもののほうが深い話を子供に伝えられるからね」(中安さん)

CASE1でやわい屋のご主人が「ここ(地方)では自分が主役になれる」とおっしゃっていたが、実は中安さんもこんな話をしてくれた。

都会は、“他人のために働く”ことがメインなんです。だから責任も他人が請け負うものだと思ってる。でも田舎に住むことは、“自分の責任”がとても多い。生活環境、子育て、仕事、お金、自然の中で遊ぶ責任。すべて自分の責任です。でもそれが幸福につながるし、探究心も生じる事でもあります。責任と存在が明確だから“自分の存在意義”が見えやすいんですよ」(中安さん)

【オーベルジュ飛騨の森】
岐阜県高山市新宮町3349-1
☎︎0577-34-6575
https://www.hidanomori.jp

【渋草柳造窯】
http://www.shibukusa.com/

協力/飛騨市役所

【関連記事】

コラムニスト 松尾 彩

こらえ性のない飽き症という特性を生かして、アーバンリサーチWEBマガジン「URBAN TUBE」にてエッセイ、コラムを寄稿するなど、雑誌からカタログ、ウエブコラムまでつれづれなるままに活動中。夫婦料理ユニット「#サイトウのゴハン」ディレクター。

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