しごとなでしこ - SHOGAKUKAN

今夜もボナペティート【32】

周囲がどん引きするほどの【栗バカ】が栗づくしイタリアンを作るとこうなる

イタリア家庭料理研究家として活動する山中律子さんの連載コラム。山中さんがイタリア各地のマンマたちから学んだ絶品レシピやライフスタイルを紹介します。

2017年「栗バカ」活動報告

去年の秋にも、恥ずかしげもなく「バカっぷり」を披露したコラムを書いたので覚えていらっしゃる方もおありかもしれないが、周囲がどん引きするほどの「栗バカ」である。

世の中には、特に女子にご同輩が多いようで、この時期は毎年さまざまな栗スイーツが話題になるけれど、もう何十年も栗バカ人生を歩んで来た果てに辿り着くものは、結局は限られてくることも書いた。

栗だ栗だと食べあさるのではなく、栗に対する自分の舌への絶対的な信頼の下、自分が本当に旨いと思うに至った「あの店のあのマロンパフェ」と「あの栗きんとん」、あるいは「あの農園のあの栗」などをシーズンが終わるまで存分に食べ続ければそれでいいのだ。

しかし、栗という食材を軽んじた料理やケーキを見ると、つい黙っていられなくなる。

たとえば新栗を使ってるわけでもない、既成のマロンペーストでつくった明らかに通年販売しているモンブランなのに「マロンシーズン到来」と掲げる便乗商法。ポルチーニの季節なのに乾燥ポルチーニでつくったリゾットを出すようなものだ。

素材にこだわったおいしい料理で定評のある都内のイタリアン、そこで開催される料理教室に参加した友達が「栗のプリン」を習ってきたよとレシピを見せてくれたのだが、レシピに書かれていた材料は「マロンペースト」。これも、正直残念な思いがした。なんというか、栗好きの足元を見られているかのようなこうしたがっかり現象が、やたら気になって仕方がない。

しかしおそらくどのケースも、作り手自身が、これといって栗が好きなわけではないのだろう。食べる方だって、おいしければそれでよいというのが普通の考え方だ。

…しかし、でも、でも、やっぱりすっきりしない。

違うんだよな。こうじゃないんだよな。ああ、もどかしい。

ええい! だったらもう、自分で作っちゃえ!

栗好きが作ると、栗イタリアンはこうなる! というフルコースを作ってやる!

前菜からドルチェまで、栗、栗、栗のフルコース

そうして2年前から、当方の料理アトリエ「リストランテ・リッツ」にて始めたのが、「栗祭り」

決まりは、市販の栗ペーストや甘露煮は一切使用せず、新栗だけを使うこと。

最初は、ひとえに自分自身の自己満足のために始めたわけでが、いやぁ、私の周囲には「我こそは栗バカ」と思っている人がこんなにもいてくれたのかと、年々、心強さを覚える。

3年目ともなると、メンバーも固定化してきたので、毎年新しいメニューを提供しなければならないのだけど、栗バカを納得させるという仕事はやりがいもひとしおだ。

そして今年も、10月後半、二日に渡り栗祭りを開催した。

栗祭りに使う栗は、茨城県の岩間や、長野の小布施などから、その用途に合わせて大量に取り寄せる。かつ、栗の下準備も、料理によって変わってくるから、栗を茹でる作業だけで3つの鍋を火にかけなばならない。

【栗の下ごしらえ】
1.
皮ごと1時間以上火にかけてやわらかめに茹でた栗を、ふたつに割って実をくりぬいて、ひたすら裏ごし器にかける。

2. 1よりは少し早めに火からおろし、皮をむいて適当な大きさに砕いておく。

3. さっと茹でた後、皮をむいて、うっすら甘い甘露煮にする。

こんな手間を注ぐなんて、特に栗が好きでもない人なら、狂気の沙汰に見えるだろう。しかし、ここに集う人たちは、誰一人文句も言わずに手を動かす。

見よ!この栗の裏ごしの量を!

11

こんな裏ごし、ひとりじゃ絶対にしない、できない、したくない。
さすがは栗バカたち。


今年はプリモピアットを2種類、セコンド、ドルチェというメニュー構成。

■1:生ハム&栗

しかしやっぱりアンティパストも欲しいよね、ということで、大胆にこんなことやっちゃった。

生ハム&栗
生ハム&栗

だって、生ハム&メロンもきっといちばん最初は誰かが周囲から馬鹿にされながらやったに違いない。料理に保身は禁物だ。

信州は小布施から取り寄せた大粒の高級ブランド栗「銀寄」を丁寧に甘さ控えめの甘露煮に仕上げ、これを生ハムでぐるりと巻いて。これ、結構、アリです。

■2:栗ニョッキ

さあ、ここから先は、大量の栗をどんどん使って料理するぞ。まずは「栗のニョッキ」

栗ニョッキ
栗ニョッキ

イタリアで「栗のニョッキ」というと、栗の実ではなく栗の粉を使ったものがほとんど。生の栗を乾燥させたあと粉にしたものを、小麦粉に代わる貴重な穀物として伝統的に使用してきたイタリアでは、「栗の○○○」と名乗る料理に栗粉が使われていることが結構多い。

しかし、チーム栗バカは、もちろん栗の実そのものにこだわる。

ニョッキは、裏ごした栗だけではまとまらないので、ジャガイモを少しだけ足して。しかし下手するとジャガイモの味が勝って、ただのジャガイモのニョッキになってしまうので要注意。かといって小麦粉を増やせば今度はすいとんみたいになってしまう。ニョッキは材料の配分が命といってもいい。

栗の〜と名乗るからには、つなぎは最小限にとどめ、やわらかめでもいいから口に入れた瞬間に真っ先に栗の味を感じることを優先する。

ニョッキとワイン
ニョッキとワイン

絡めるソースは栗の風味を邪魔しないようシンプルなセージバターで。見た目の栗感も大事にしたいからさいの目に切った栗の実も一緒に。甘露煮にしたものを使うと、ほの甘さがバターにものすごくマッチしていい感じ。

参加者のK子ちゃんが行きつけのワイン屋さんで「栗の風味の白ワイン」とやらを買ってきてくれた。おそらく栗の木の樽を使っているのだろう。うん、確かに山里の風味がするかも。ワインまでも栗。栗バカ仲間のまさに阿吽の呼吸というやつである。

見た目はパッとしない栗色ニョッキだけど、盛る器によって一転してフォトジェニックになることもわかった。土色の唐津焼や備前焼ともよく合うこと。

さて、つづいてパスタ。

うちの「栗祭り」の常連さんには、意外なことに男性も多い。なので一品くらい「栗を使っているのに繊細じゃない味」があってもいいんじゃないだろうか。

■3:キノコと栗とサルシッチャのラグー

そう思って考えたのがこのパスタ、「キノコと栗とサルシッチャのラグー」

キノコと栗とサルシッチャのラグー
キノコと栗とサルシッチャのラグー

平茸、しめじ、舞茸などそこらへんで売ってる普通のキノコで十分だけど、大事なのはいろんな種類のキノコを使うこと。サルシッチャの塩気がキノコにしっかりしみこんだところへ、砕いた茹で栗をどばーっと投入。栗のポクポクっとした甘さが下品さを和らげる。

■4:鶏ムネ肉のカツレツ、栗のピューレ添え

みんな、すでにお腹がいっぱいになりかけてるけれど、口に出したら負けとばかりに絶対に口に出さない、さすがは栗バカの皆さま。いざセコンドへと進むのだ。

鶏ムネ肉のカツレツ、栗のピューレ添え
鶏ムネ肉のカツレツ、栗のピューレ添え

「鶏ムネ肉のカツレツ、栗のピューレ添え」。無理やりピューレで栗を使うなんて反則じゃないの? と思う人にほど試してもらいたい一品。日本でムネ肉というと、ダイエットしてる人のヘルシー食のように消極的に使用するイメージだけど、イタリアでは能動的に結構よく使う。

ムネ肉を、鮃の薄造みたいにできるだけうすーく切って、これを細まく挽いたカツにするというシンプルなものだが、脂身がない分、ブロードで溶いた栗のピューレと相乗効果を発揮する。カツとピューレを一緒に口に運べば、なるほど、だからムネ肉なんだ、だから栗なんだ、と納得できるはず。

■5:栗のケーキ

最後のドルチェ、栗のケーキがこれまたすごい(自画自賛)。

栗のケーキ
栗のケーキ

裏ごした栗を丁寧に練り上げて、まずはマロンペーストをつくる。これを生地に練りこんで型に流したら、手作りした甘露煮を焼き込んでわざわざ焼き菓子に。

甘露煮は惜しまずに隙間なく置くことで、焼きあがってカットしたとき、どこで切っても「栗」がお目見えするというわけ。添えるソースとして、再びペーストを、今度は甘さ控えめに作り直すという徹底ぶり。ここまでくると、ああ、最高に気持ちいい。

栗のケーキ2
栗のケーキ

終わってみれば、なんともいえない達成感。もう、これで秋がおしまいで明日から冬でも文句いいません、ってくらい。

使用した栗は全部で10キロ以上。この栗という食材への盲目なまでの忠誠心は、ほとんど宗教だ。

栗祭り通り越して、栗礼拝。

毎年、こうして栗イタリアンの追求につきあってくれる「栗バカ教徒」の皆さまの期待を裏切らぬよう、早くも来年の秋の礼拝に向けて精進の日々を始めなくては。

ちなみに今回の栗祭り、台風接近につき二日ともどしゃぶりの雨だった。
にもかかわらず「予定通りやるの?」の声はひとつもあがらず、しかもそれぞれに「マイ栗剥き道具」を持参でやってきてくれた。

そんな我が栗バカ教徒のみなさんに心から敬意を表したいと思う。Bravissimi!!!

栗向き道具
【連載一覧】

山中律子 イタリア家庭料理研究家

慶応義塾大学法学部政治学科卒。電通にてコピーライターとして勤務の傍ら、イタリア家庭料理研究家として活動。毎年、子連れでイタリア各地の田舎を旅し、アグリトゥーリズモや農家のマンマに料理を習う。自宅で料理教室や料理イベントを主催。著書に「トルテリーニが食べたくて」。

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